隠れクール上司~その素顔は君には見せはしない~1

女2人に男1人なんて、嫌だろ?

 湊は、店長室をぐるりと見渡し、それだけで関の力量を既に感じ取っていた。

 どうせファイルの中身を見てもやらなければならないことは完璧、ある程度どうでも良いところは、適当に流していると思うので、見ることすらしない。

「どう」

 パイプ椅子に腰かけながら、目の前の関 一に尋ねる。

 普段開け放たれている店長室のドアは、今は故意に閉められていた。

「まだまだだとは思います。白物家電の接客力が弱い。なので、どうするか思案しているところです」

 店は店長、副店長2人、テレビやパソコンなどのAV機器関係を販売するおよそ100名を統括するAV部門長、洗濯機や冷蔵庫コーナーなど家電関係製品を販売する120人を統括する家電部門長、さらには携帯部、時計部、修理、部品部と、おおまかに5つの部門に分かれている。

「…なるほど」

 数字からはそれは見えなかったが、重要なところだ。

「部門長の統率力が弱い。かといって、今の部門長以上に適任な者はこの会社自体にいないと思います」

「ふむ……。じゃあ育てるしかないね」

「1つ、AVの八雲と交代させる、という案も捨てきれずにはいますが」

「大胆だね!!」

 湊は全く違う部門の長2人を交代させるという、前代未聞の提案に、身を乗り出した。

「八雲の要領の良さと統率力とフォロー力、それで白物はいけたとしても、逆が崩れるのが目に見えていて、どうしても踏み切れません」

「まあね」

 簡単に身を引いた。だが、人事としていい所はついているような気がしたので、腕を組んで考えてみる。

 胸のバイブレーターが振動した。

「……」

 美生だ。

 湊は構わず電話に出る。

「もしもし?」

『今どこ? 』

 面倒そうなので、

「誰もいないよ。どうしたの?」

 関が椅子を静かに引いて、距離を取ってくれる。

『あのさあ、今日居酒屋行くじゃん』

「うん」

 腕時計を見た。15時か。18時上がりだといっていたから、19時で店を予約してもらおうか。

『あのさあ、さっき私の隣にいた子知ってる? 中津川沙衣吏』

「知ってるよ。副部門長」

『一緒に食事、どうかなあ……。その子も18時上がりだしぃ。でも、ダメならいいの。なんか、今日は2人で話さないといけない話があるとかそういう…』

「あぁ、いんじゃない」

 ちら、と関を見る。

 3人というのは窮屈で嫌だ。

『え、ほんとにー?』

 言っておきながら、美生はあまり乗り気ではなさそうだが。

「いいよ。店は僕が予約しておく。19時でいいよね」

『うん。お風呂入ってから行く』

「うん。じゃあ、また店予約したら、メールする」

 電話はすぐに切った。副部門長か……。

「一君は今日何時上がり?」
 
 関は少し驚いたように顔を上げてから、

「私は、一応シフトは17時ですが…」

「うん。じゃあ飯行こう」


「…、それは構いませんが……。誰かと一緒ですか?」

 あ、さっきの電話でバレてたか。

「うん。関 美生と、AVの副部門長」

 名前はなんだったか、忘れてしまった。

「……構いませんが、何故そのメンバーで?」

「いや、僕も誘われたから分からなくて」

 何故副部門長なのだろう? まあさっきの話を隣で聞いていて、行きたくなったんだろうが……。

「え? 誰に誘われたんですか?」

「あ、いや。関 美生とは昔からの知り合いなんだけど」

「はい」

 それは言ったことあったな。

「それで飯の約束したら、副部門長も来るという電話が今あった」

「………それで、何で私なんです?」

 関はじろりとこちらを見たが、

「まあまあ、女2人に男1人なんて窮屈で嫌だろ? 何言われても言い返せない」

「…………」

 確かに、と思ったんだろうが、面倒なことに巻き込んでくれたなというのが顔で見えた。

「ははは、奢るから」

 湊は簡単に言うと、仕事の話を再開しよう、と顔を変えた。
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