未完成のユメミヅキ
トイレで手を洗い、溜息をつきながら廊下に出る。すると、まるで偶然の神様がわたしの悩みを聞いていたかのように目の前に長身が姿を現す。
「ああああ」
隠れようと思ったけれど、どうもそれは無理なようで。偶然の神様ではなくてトイレの神様だったのだろうか。どっちでもいいけれど。
ああ、神様。できればトイレじゃなくてせめて教室から出てきたところで遭遇したかった。
「あ……どうも」
「和泉くん。どうして」
「飯食ってたら、見かけたから」
もしかして追いかけてきてくれたというのだろうか。食後すぐトイレ前で申し訳ない。
とはいえ、チャンスなので話を切り出そうと思う。
「ちょっと、こっちに」
トイレ前から少し移動して貰う。雰囲気も悪いしね。そして深呼吸。
「あの、和泉くん。キーホルダーね、できたよ」
和泉くんの大きな目がきゅっと細められた。ああ、嬉しいんだなって分かる。もっと見たいと思う。
「完全オリジナルだから。和泉くんのためだけに作ったやつだから、世界にひとつ」
また、きゅっ。きゅっと目が。ドキドキする。
「今日の部活があるなら、持って行こうと思っ」
「あ」
言葉を遮り、彼の目が急に動きを止める。
「帰り、待っているよ」
わたしの呼吸も止まる。
「良かったら、駅まで」
下を向いて、床に向かって和泉くんはそう言った。
「嫌じゃなければ」
嫌なわけがない。
何度も頷くわたしを見て、またきゅっと目を細めて、和泉くんは去っていった。
駅までって、それって、一緒に帰ろうってことでしょう? 今日は、部活が無いのかな。プレイする彼を見られないのは残念だけれど。
ふらふらと教室へ戻って、午後の授業が始まっても、全部が上の空だった。
最後の授業はチャイムが鳴っても先生の話がなかなか終わらず、少し長引いた。
他の教室から廊下に散らばっていく生徒の雰囲気と音は聞こえていて、この中に和泉くんがいるのではと気が気ではなかった。
ようやく終わって、急いで帰りの準備をしようと鞄を開けた。携帯にメッセージ着信のランプが点灯していた。見ると和泉くんからで、校門のところで待っているというメッセージが入っていた。きっと、最後の授業が終わってすぐ教室を出たのだろう。
「待たせちゃう」
乱暴に鞄を掴んで教室を出ようとした。タロちゃんも出ようとしていたところで、入口でかち合う。スポーツバッグを肩から提げていた。
「まふ、もう帰るのか」
「うん。タロちゃんは部活?」
「おう」
タロちゃんは、バッグをぽんと叩いてみせた。
「和泉くん、今日は休みなのかな……」
「ん?」
「なんでもない。じゃあね。急いでいるから」