未完成のユメミヅキ

 帰宅して夕飯を食べてから、亜弥に電話をした。

『なにそれ。ただ連れて来いってこと?』

「うん。亜弥もだからね」

『そんな楽しそうなこと、呼ばれなくても行くわ。問題は天田和泉ね』

 タロちゃんも亜弥も、なんでそんな得体の知れない企みに対して、楽しそうだなんて思うのだろうか。わたしには気が知れない。

「ただ誘っても、場所が体育館だとまたバスケかよって言われそう。絶対に来ないじゃん」

 バスケはもう辞めたのだと繰り返す彼を、体育館という場所に誘い出すのは難しいのだ。

「先生もタロちゃんも分かっているくせにさぁ」

『でも、わたしたちの中でいちばん和泉くんが言うこと聞くのって、まふだと思うんだけど』

「その出所不明な信頼は重荷」

『ごめん、ごめん。で、どうやって誘い出すかなんだけれど』

「それ。亜弥ちゃんの頭脳をお借りしたい」

『二段階でおびき寄せるのがいい気がする』

 二段階とは。頭のいいひとの考えにはついていけない。電話口から、うーんと唸り声が聞こえる。わたしも同じく唸った。

『わたしが、まふが呼んでいるって誘うから、それから体育館に連れて行ったら?』

「そんな回りくどいことして来るかな」

『第一段階にわたしなら、バスケのことだと考えないと思う』

「それもそうかなぁ」

『さらりと言ってくるから。任せて』

 亜弥はこういうところ、凄く頼もしい。

「用事あるって帰らなきゃいいなぁ」

 そこは賭けだな。
 とにかく明日、なんとしても和泉くんと体育館に連れ出さなければ。亜弥がいてくれて助かった。

「じゃあ、明日よろしくお願いします」

 まるで業務連絡のような会話になってしまったけれど、亜弥との電話を切った。

 なんだか深刻に考えているのは自分だけが気がしてきた。盛大にため息をついて、ベッドに仰向けになった。


< 62 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop