未完成のユメミヅキ

 ◇

「ただいま」

 帰宅すると、夕飯のいい匂いがしていた。仙スパの選手たちを見て興奮はまた冷めない。そのせいなのか、匂いで一気にお腹が空く不思議。

「お帰り。遅かったね」

 お母さんがキッチンに立っていた。

「今日ね、学校に仙スパの選手が来たんだ」

「ええ、そうなの?」

「サプライズ訪問。テレビも来たんだよ。明日のオバンデイズで放送されるんだって」

 オバンデイズとは地元の情報番組だ。番組タイトルは、東北地方の、こんばんわの方言「おばんです」から取っている。地元のニュース、プロスポーツニュースなども取り上げる。お母さんは驚きつつも、嬉しそうにしていた。

「麻文、映るかな」

「どうかな。バスケ部とミニゲームしたんだけど、タロちゃんは映ってそう」

「楽しみだね。お父さんも、もうすぐ帰ってくるから教えよう」

 部屋に行って、着替えなきゃ。

 リビングを見渡すと、家族写真が目に入った。コルクボードにあるものと、写真立てのもの。お父さん、お母さん、わたし。3人で笑っている。そして、写真の隣にはお父さんの携帯電話が置いてある。わたしが小学生のときに作ってあげたフェルトのキーホルダーが付いている。まだ下手くそで糸の処理とかもうまくできていないから、ボロボロになっていた。バスケットボール型のキーホルダーだけれど、それこそ肉団子に見える。

 わたしが初めて作ったのが、このキーホルダー。お父さんにあげたものだった。

 お父さんは、仙スパのファン「ブースター」だった。仕事が急がしかったし、もっぱらテレビ観戦組。なかなか生観戦に行けないのを残念がっていたけれど、時々、友達と観戦できるときはとても嬉しそうに出かけていった。

 なにがきっかけでバスケ好きになったのかは分からない。経験者でもないし、試合を解説してわたしとお母さんに呆れられていた。

 スポーツ観戦にはまる、応援するのに理由と期間は関係ないんだなと思った。楽しそうだったから。

 仙スパのことは、わたしはよく分からない。バスケットのルールもよく知らないし。もし知っていれば、お父さんと会話が盛り上がったのにね。

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