ユキドケ
「おーい、父さんたち帰ってきたぞ」


呼びかけられていることに気づき目を覚ます

呼んでいたのは裕太だった


「ん、分かった」


寝起きの顔を見られたくないのと、裕太の顔が想像以上に近かったことに驚いたのもあり、コタツの布団を顔まで被ると


「起きるんだってば」


裕太は私がまた寝ると思ったのか、そう言って被っていた布団をめくった


私はひとつため息をついてから起き上がった

息を吐くと冷静になる自分がいた


「分かったって」


ぶっきらぼうに返事をして、リビングへ行くと二家族とも揃っていた


「お、きたきた」


「ごめんね、お待たせ」


この父親たちは、かなり性格に差があるような気がする

いや、ある、絶対


裕太の父は、ほがらかという言葉がぴったりだ


それに比べて私の父は、賑やかし要員かと思うほど、常にテンション高めだ


「おかえり」


自分の父にそう言ってから、裕太の父を見ると申し訳なさそうにしていた


別にそこまで待ったわけではない

裕太と遊んで、その後寝たから、たいして時間の経過は気にならなかった


「大丈夫だよ、だってこれ裕太のお父さんたちのための集まりなんだから」


そう声をかけると今にも泣きそうな顔になった

きっと、泣くタイミングは今ではない

この後の会で流すべきだろう


「〜〜っ!裕太と違って本当にいい子!」


「って、俺だっていい子だろ」


そこからは親子の会話になってしまったが、見ているだけで十分だ


その後、お別れ会が始まり、予想通り母親たちは泣いて抱き合っていた

だいたいは親同士の会話だった


どのあたりに住むのか

近くに何があるのか

裕太の学校はどこなのか


いろんな地名が飛び交うが、私には初めて聞くものばかり

裕太も同じようだった

それでも耳を傾けているのは、これから自分が行く場所に、少しは興味を示している証拠だろう

知らない場所、知らない人ばかりのところで、裕太は不安じゃないんだろうか

学校でのお別れ会でも泣かなかった

むしろ、いつも以上に、笑っていた


「裕太」


「なに?」


気づいたら名前を呼んでいた


裕太の気持ちに少し気づいてしまったから


「何でもない」


何を話すかなんて決まっていなかった


「なんだよ」


だけど、裕太は引き下がってはくれない


「なに、聞きたいことでもある?」


聞きたいこと

そんなの山ほどある

でも聞けない


「いつ、引っ越すの?」


無難な質問は何か、頭をフル回転させたが、これが精一杯だ


「んー、卒業式の次の日?」


自分のことなのに、ハテナ付き

質問を間違えた気がする


「そうよ、次の日。お別れ言いに来てちょうだいね」


会話に途中参加したのは裕太の母だ


「じゃあ、もうすぐだね」


「だな」


卒業式は今日から数えて3日後

つまり裕太と会えるのも、それが最後

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