嘘つきピエロは息をしていない


 上靴に履き替えず向かった先は、裏庭だった。

 この場所で俺は吉川に素顔を見られた。

 あのとき油断してなきゃコイツと関わることもなかった。

 コイツと出逢わなきゃ他人と距離を縮めるなんて考え二度と浮かばなかったかもしれねぇし、なにより、俺が誰かを好きになることだって――

「ここで私、ナイキくんの正体暴いたんだよね!」
「正体暴くって……。俺は黒幕か」

 このたった一ヶ月程度が俺にとってどれほど濃かっただろうか、なんて。

 考えなくてもわかる。

 あんなに毎日の繰り返しにうんざりしていたのに、明日が来ることが楽しみに思えた。

 それがまた苦痛に変わった。
< 124 / 294 >

この作品をシェア

pagetop