嘘つきピエロは息をしていない
「なあ。吉川の話も聞かせてくれねぇかな」
「そんな……ワタシは……」
「怖がらなくていい。話すことを」
「……っ、話すことなんて、ないよ」
なんとも下手くそな作り笑顔を浮かべやがる。
お前そんなに笑うの苦手だったのか。
「嘘つききり」
「……っ」
「きり」
「なんで……名前、」
「ホントはずっと呼びたかった。名前で」
「そう……なの?」
なあ、吉川。
俺はお前に謝らなければならないことがたくさんある。
「だけど呼ぶのをやめた。一度だけ名前を呼んだ日のこと、お前は覚えていないかな」
「……覚えてる」
「ほんとか?」
「廊下で。いっちゃんが、お弁当届けに来てくれた直前」
「さすが。記憶力抜群」
「……嬉しかったから。名前で呼んでくれて。また、いつか呼んでもらえるかなって……密かに楽しみにしていたよ」
「言えよ。そういうこと」
「言ったら……困らせちゃうかなって」
そうやって心を閉ざすクセがあることに、どうして気づいてやれなかったんだろう。
「知ってるか? 俺はお前に困らされるのが意外に嫌いじゃない」
「ウソ」
「ホントだって。なんなら。むしろ困らされたい」
「えぇ……?」
「たしかにあのとき抱えた時限爆弾は制御した」
好きだ――と、言えなかった。
言ってもどうにもないと知っていたから。
「でもな。俺もうなにがあっても逃げねえから。だから、お前も自由になれ」