嘘つきピエロは息をしていない


「アイツもしかして芝居が恋人か……?」

 吉川の男っ気のなさは極めて珍しいというか、あの西条さえ男でなく部員候補としてしか見ていなさそうなところがある。

 でも、一人だけ。

 一色先輩への態度だけは明らかに他のヤツとは違っていた。

 甘えてるというか。

 『いっちゃん』なんて男の先輩に呼んでいるのだって特別感が多分にある。

 すなわち二人は親密と考えるのが妥当だ。

 いったいどういう関係なんだ?

 俺に触れられただけで固まる吉川が、一色先輩と付き合ってるとは……考えにくい。

 男いたらもう少し慣れてるだろうから。

 って、なんで吉川のことばっか朝から考えてんだか。

「やめやめ。思い出すな、俺」

 靴を履き替えていた、そのとき――

「ナイキくん!」

 すぐに、それが誰の声か聞き分けられた。
< 83 / 294 >

この作品をシェア

pagetop