嘘つきピエロは息をしていない


「俺がお前に教えた杉田を落とすためのアドバイス、なんだった?」
「えっと。第一に、落ち着いて話す」

 そうだ、吉川。

 お前は落ち着きが足りねえ。

「それから?」
「まずは、自己紹介から。クラス、名前、演劇部であるとシンプルなものでオッケー」

 ああ。

 いきなり初対面の人間のパーソナルスペース(他人に近づかれると不快に感じるエリアのことだ)に入るだけでも警戒されかねないのに、名乗りもしないでテメェの要求だけ伝えるなんて、ほぼ自滅すると思え。

 俺を勧誘してきたときみたいに、返事もらう前に目的もなにもわかってもらえず逃げられかねない。

「そして?」
「少しでいいのでお時間とれますか。三分でいいです。ということを伝えた上で、相手の確実に来れる日時を聞き出し、部活見学に招待する約束を取り付ける。渋れば『月曜と水曜ならどっちが来れそうか』と、二択から徐々にしぼること」

 三分くらいならいいかと思わせると相手も身構えずに済む。

 また、二択を選ばせたのは『いつがいいか』って曖昧に聞くと相手は答えにくければ『考えておく』『また機会があれば』と逃げられやすくもあるから。

 吉川ならそれを素直に『考えてくれるんだ!』『機会くるといいなぁ!』なんて受け取ってバッドエンドを迎えるのが目に見えていた。
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