嘘つきピエロは息をしていない

「そう思わせたんだよ」

 消去法だった。

 入学したての四月上旬ならまだしも、もう五月半ばだ。

 俺の身近な人間の中でこれから部活に入りそうなヤツを探すよりは、演劇部に絶対に入部しなさそうなヤツを覗いていった。

 結果、残った二人が杉田と白木だった。

 杉田は料理部、白木はパソコン部。

 兼部するにはもってこいの活動が緩い部だ。

 二人は共通して群れるタイプではなく単独行動派。

 かつマニアックな趣味を持っていた。

 そうそう俺がどうして真希波似の二年をエサに白木を釣ろうと考えたかって言うと、演劇部の部室に見学に行った帰り際、俺と入れ違いに部室に戻る吉川、一色を見かけたのだが。

 そこ赤眼鏡が特徴的な、茶色い髪を低い位置に二つに結っている二年がいた。(上靴を見れば学年はわかる)

 その女が、たしかに似ていた。

 白木の使っている下敷きのキャラクターに……。

 いや、下敷きだけじゃねぇ。

 休み時間に必ずと言っていいほど使ってるスマホのケースも同様のキャラだった。

 これは格好の餌食(えじき)だって直感が働いたのは言うまでもない。

 よって、最初のターゲットに定めた。

 ぶっちゃけ勝率なんてわからなかった。

 そんなに高いとも思わなかったが、無理な話でもないくらいに考えていた。

 もちろん二人とも断られて終わる未来も想定していた。

 そのときは少しくらいは励ましてやってもいいと思ってたが、吉川のやつ、たいしたもんだ。

 まさか二人ともゲットしちまうなんて。

 意外と勧誘の才能あんのかね。

「もし俺が『可能性低い』なんて言えば怖気づいたろ? 吉川に幾らか自信持たせたかったんだよ。不安ってのは傍にいる相手にも伝わるもんだからな」
「そうなんだ……!」
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