嘘つきピエロは息をしていない


「モテたくないんでしょ!」
「…………」
「ズバリ! モテたくないんでしょ!?」
「同じこと二回言うな」

 しかも自信満々に。

「いやここ重要だから!……ちがうの?」

 当たらずとも遠からず、だな。

「そうだな。俺は、女ってのは、とことん合わない生き物だと感じてる」

 嫌いだった。

 嫌いな、はずだった。

「だからモテたいとは思わねぇ。家特定されて、ストーカーまがいのことされて、散々な目にあった経験もあるしな」
「やっぱり……。そうなのかなって思ってた」
「はは。案外人のこと見れてるじゃねーか」

 だがな、吉川。

 俺が人と関わらないようにしている主たる理由は、そこじゃないんだ。

 心に余裕がないから。

 それだけの話だ。

 女と話せば嫌でも“あの女”を思い出してきた。

 同性には向けない甘ったるい猫なで声も。

 俺の気を引こうと作り出された上目遣いも。

 一方的な、期待も。

 嫉妬も、束縛も――狂気さえも。

 どこかしらにあの女との共通点を見つけてしまう。

 そうなると、拒否反応が出てしまう。

 ベタベタ触れられるのが嫌だ。

 それでも何もかも忘れ好きでもない女と快楽にふけることはあった。

 そんな一時的なことで到底心まで癒えることはなかったが。

 それじゃあ今は余裕があって吉川といられるのかって言われたら、そう言うわけじゃない。

 きっと余裕がないからこそ吉川といてしまうのだと思う。
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