だったら俺にすれば?~オレ様御曹司と契約結婚~
南条瑞樹が最低な男だとか、このままでは自分もこの底なし沼にハマってしまうのではないかというような恐怖は、残念ながら、この時はすっかり頭から吹き飛んでいた。
圧倒的に美しく、大きく、雄々しい存在に抱きしめられて、まるで自分が、ただかわいがられるだけの、子猫にでもなってしまったような……。
すべてを投げ出して、その胸にすべてを預けてしまいたい、そんな錯覚すら覚える。
このまま彼に身を任せたら、どんな気分になるだろう?
そんな経験はしたことがないのに、なぜか玲奈の体の奥は、その快感を知っているような気がした。
(どうしよう……)
足が震え、力が抜けそうになる。
このままでは、心も体も、御曹司にからめとられてしまう。
だが突然、その甘い陶酔(とうすい)を切り裂く電子音がふたりの間に響いた。
玲奈がハッとして我を取り戻すのと、瑞樹が胸ポケットからスマホを取り出して見るのは、ほぼ同時だった。
「ああ……タクシーが来た」
その声は実にあっさりしていて、夢から覚めるには十分威力があった。