あなたと私と嘘と愛
「亜香里」
外へ出たところで声をかけられた。
全身にぞわっと身の毛がよだつ。
爽やかだけど少しねちっこい声が私の動きを止めさせた。
坂井さんだ。
「お疲れ、待ってたよ」
「………」
何で、と思う。
今日会うのは夕方だ。彼の仕事が定時で終わるのにまだ一時間以上も時間が早い。
なのに彼は優雅な顔してこっちへ近付いてくる。
「会いたかったよ」
「…あ、仕事は…」
「今日は休んだんだ。少しでも早く亜香里と会いたくて仕事に身が入らないと思ったからね」
言葉が出なかった。
その代わり背筋からぞぞぞっと鳥肌が広がっていく。
「もう体調の方は大丈夫なの?」
「え、はい。一晩ぐっすり寝たおかげで…」
「そう、なら良かった。僕は寂しくて死にそうだったよ」
顔がひきつりそうになって慌てて作りものの笑みをつくる。
何を言われてもぞわっとする。
1度無理だと思ってしまったら、こんなにも受け入れられないんだと自分でも理解する。