あなたと私と嘘と愛
恐怖で縮こまる私に彼はコーヒーを飲み干すと変わらぬ笑みを向け、伝票を掴む。
「パフェが溶けちゃうよ。俺は先に帰るけど亜香里はゆっくり食べて帰ればいい。また連絡するよ」
そのあとあっさり帰ってしまった彼を唖然と見つめる。
(…い、今以上の愛ってなに?)
鳥肌なのか、蕁麻疹なのかよく分からないものが体にぞわっと浮かんだ。
目の前が暗く青ざめていく。
「あーちゃん」
「うーちゃ…」
彼が店を出た後すぐに私の隣に来たうーちゃんが私を抱き締める。
「大丈夫?」と心配してくれたけど、複雑な表情は隠せない。
「あれはかなりねちっこいタイプね…」
坂井さんという人物を目の当たりにしてうーちゃんはしみじみと語る。
「ああいう自己完結男はこっちが何を言っても自分のいい方へと解釈しちゃうの。かなり面倒な男だわ」
だけど今のやり取りは全部うーちゃんがボイスレコーダーで録音してくれた。
念のため私もポケットに同じレコーダーを入れて録音済みだ。
何かあったときの証拠になればと作戦を練って正解だった。
とりあえず私からはもう連絡しない。
電話がきても相手にしない。
自分の気持ちはちゃんと伝えたから、あとは彼がどう出てくるかだ。