あなたと私と嘘と愛

「あの子がずっと寂しがってのは分かってた。けどそれを突っぱねたのは私。1番一緒にいて欲しい時に私はいつもいなかった。側にいてあげなかった。ましてやまだ5才の子に対して大人になりなさいなんて理不尽なことまで告げて…」

それを聞いてえっと驚く。
覚えてたんだ…
あの時のこと、絶対忘れてると思ってたのに…

「あの頃の私は働かなきゃ生きてこれなかった。女優としては駆け出しだったし、亡き夫の失敗した事業の莫大な借金を返さなきゃいけなかった。仕事で成功してのし上がる事だけを考えて必死だった。自分のことでいっぱいいっぱいだったのよ」

またしてもビックリする。
…借金って?
そんなことは1度も聞いたことがない。初めて聞く事実に当然だけど戸惑いを覚える。

「…けど、それは全て亜香里の為ですよね?亜香里に不自由な暮らしをさせない為だったんじゃないんですか?全て亜香里との生活を守るために」

「……」

「…悠里さん?せめて俺には正直な気持ちを言ってくれてもいいんじゃないですか?最後ぐらい本音を伝えてもバチは当たらないと思いますけど」

「……」

静かな間がとても歯痒かった。
母の続きが聞きたいようで聞いたらダメなような気がして気持ちが揺さぶられる。そもそもこんな盗み聞きなんてよろしくないのにやっぱり次の言葉が気になってしょうがない私は、


「……そう、ね」

「え?」

「優斗の言う通りよ。守りたかった。何よりあの子を守りたかった。借金のせいであの子に苦労をかけさせたくなかった。亜香里がずっと笑って暮らせるためなら何だって頑張ろうと思ったの」

フワッと目の前の明かりが鮮明になる。
目を見開いた私は母の言葉に衝撃を受ける。
< 383 / 471 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop