あなたと私と嘘と愛
「……」
やっぱり帰ろう。出直そう。
そう思った時だった。
「本当、立派ですね」
優斗はそんな言葉を口にした。
けどその口調は決して誉めているものではなく、
「その志し、立派すぎて尊敬に値しますよ。本当によくできた人ですよ悠里さんは。流石です…、けど何ででしょうね?どうしてか俺にはさっきから全然心に刺さらないんですよね?
まるで物語を聞いているようで」
「…え?」
……優斗?
母の不審めいた声と、ハッとした私の心の声が重なったのはほぼ同じだった。
「これってよくある小説ですか?というか物語だなって。きっとドラマの世界だったらこのまま感動のラストを迎え素敵な人生を終えるんでしょうね」
病室の空気が一瞬ひんやりと静まり返っていくのが分かる。
私は優斗が何を言いたいのかすぐに理解できず、少し間をおいて母の珍しく濁した声を聞いた。
「…優斗?」
「とても都合のいい人生ですね」
その言葉に思わず顔を上げる。
それは当然母も同じだったようで、さっきより強張ったトーンを声に出す。
「何を言って…」
「人の人生ってそんなに簡単に割り切れるものですかね?人の感情ってそんなに単純明快に整理できるものですか?
少なくても亜香里は…、
残された方はつらいでしょうね。悲しい現実が待ってると思いますけどね」