あなたと私と嘘と愛
少しトーンを落とした悠里さんに若干気になりながらも俺は黙って耳を傾ける。
「まだ主人も生きていて子供も小さい時だったけど。大昔の話ね」
「娘さんって幾つなんですか?」
そう言えば謎なんだよな。この人の家庭環境って。子供がいるってことも信じがたいわけで。けっこう前に最初の旦那とは死別してるっていうのは有名な話だが、その後はスキャンダルの嵐でよく分からない。
「今二十歳になったところよ。私と違って超がつくほど真面目で男っ毛が全然ないの」
「それはつまり反面教師ってやつじゃないですか?親の背中を見て子供は学ぶって言うじゃないですか」
「言うじゃない。けど本当のことよ。実際私は嫌われてるから何も言えないわね。ここ数年まともに顔すら合わせてないんじゃないかしら?」
「それはお気の毒ですね、娘さんが…」
この話し方からして複雑な家庭環境だってことはよく分かった。
だからこそ納得できない。そんな複雑な場所に俺を巻き込もうとしてることが。
「だったら尚更あなたのお願いは聞けませんけどね。娘さんだって嫌がるでしょう?得体の知れない俺なんかが父親になったりしたら」
それこそ複雑に拗れるのが目に見えている。