あなたと私と嘘と愛

「マネージャーから話が来て台本を渡された時、一目見て惹かれたの、話の内容に。薄っぺらくない人間らしい部分が沢山あってすぐに夢中になった」

弱々しくもちゃんとした声に俺は戸惑いつつ続きを聞きたくなった。だから黙って彼女の声に耳を傾ける。

「あんな感動は久しぶりだった。だから私は一目会ってみたくなったの。これが最後の仕事になるかもしれないと思ったから」

思い出すかのように目を閉じた悠里さんは時々苦しげに眉を寄せる。

「これが私の動機。何故かとても惹かれたのよ、あなたの作品に。最後の作品には相応しいんじゃないかって」

まさかそれだけで…?
そこまで誉められるとは思ってなかった俺は若干照れ臭さを隠すため悠里さんから一瞬視線を外す。

「けど俺は…」

「なに…?」

「あなたを好きじゃない」

そう真面目に伝えると、悠里さんはどこか嬉しそうに笑顔を見せる。

「だからいいのよあなたが。私に媚びないから。むしろちゃんと否定してくれる。駄目なことは駄目、無理なことは無理だとちゃんと言ってくれる。そんなしっかり自分をもった人は私の身近には殆んどいないもの」

「でしょうね」

そりゃそうだ。
周りの皆は月島悠里を恐れてる。大女優で嫌われると干されると言う噂が流れてる為、それは腫れ物を扱うような対応だ。


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