初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 公爵からの手紙を渡すと、マリー・ルイーズはミケーレに掴みがからんばかりにアントニウスの病状を尋ねた。
 しかし、ミケーレ自身、アントニウスが運ばれるよりも前に屋敷を出てきてしまっているため、アントニウスの病状を尋ねられても答えようがなかった。
 取り乱しながらも、マリー・ルイーズはこの事をアレクサンドラに知らせなくてはとペンを取ろうとした。
「奥様、先程、私はアーチボルト伯爵邸に寄り、アントニウス様からのお手紙と、上官のペレス大佐からのお手紙をお渡ししてまいりましたので、アレンサンドラ様も既にご存知でございます」
 そう言ってから、ミケーレも自分の迂闊さに気付いた。
 ミケーレでさえ、大きく取り乱し、マリー・ルイーズも大きく取り乱す知らせを迂闊にも、ミケーレは口頭でアントニウスの怪我の報告をするでもなく、いきなりペレス大佐の手紙を渡してきてしまったのだった。

 事の次第を知ったマリー・ルイーズは、直ちにアーチボルト伯爵邸へ使者を走らせ、アレクサンドラにペレス大佐からの手紙を開けるのを待つように伝えるように命じたが、使者は戻るなり既にアレクサンドラが手紙を読み、気を失って休んでいるという伯爵からの返事を伝えた。

 意識のないアントニウスの搬送には十分な注意が必要であり、最前線に近い医療テントから屋敷まで搬送するのに数日を有すること、そして、マリー・ルイーズにはアントニウスよりも先に屋敷に戻り、アントニウスの療養のために手を尽くして欲しいと、公爵からの手紙にはあり、マリー・ルイーズは明日にも帰国する必要に迫られ、取るものも取らず、王宮へと足を運び、帰国することをリカルド三世に知らせた。そして、アントニウスが怪我をしたこと、様態が芳しくないことを告げると、リカルド三世はアレクサンドラの事を心配するであろうジャスティーヌを直ちに帰宅させるようにロベルトの所へ使いをやった。

☆☆☆

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