初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
 一度は寝室に下がろうとしたロベルトだったが、今日のアントニウスの爆弾発言に続き、四阿で卒倒して侍医の診察を受けたアーチボルト伯爵のことを思い出し、ロベルトは自室の文机に向かってアントニウス宛の手紙を書き始めた。
 本来ならば、出過ぎた真似なのだが、四阿でアーチボルト伯爵が卒倒した原因の一つは、社交界でも知らないものはいないというアーチボルト伯爵家の経済的逼迫状況だろう。
 見合いのためにジャスティーヌが恥をかかないようにと、相当額の支度金は用意して渡してはあるが、今まで外に出たことのないアレクサンドラの支度となれば、それこそ大事で、見合いのためだけにこっそりと舞踏会に出るのとは違い、正式に社交界にデビューするとなれば、支度金をまるまるつぎ込んでも足りないくらい、半端ではない額が入用になる。それを考えると、ジャスティーヌの為にロベルトが裏工作をしたのと同じように、本気でアントニウスがアレクサンドラを妻にと望むのであれば、それ相応の負担を覚悟する必要があり、もちろん、それで振り向いても貰えず、大損してもいいくらいの覚悟が必要で、それくらいの後押しがなければ、それこそ侯爵家の嫡男の妻に相応しい社交界デビューは果たせないことをロベルトは手早く手紙にしたためた。もちろん、これはあくまでもアドバイスであり、これを読んだらアーチボルト伯爵家に資金援助をしろという脅迫めいたものではない。
 私文書であることが分かる封蝋で封をすると、『早く寝ろ』と背中から圧力をかけてくる侍従長に手紙を手渡した。
「明日の朝食前までに届けるようにしてくれ」
 ロベルトは言うと、そのまま寝室へと姿を消した。  

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