月夜の砂漠に紅葉ひとひら~出会ったのは砂漠の国の王子様~
私は光清に悟られないように、ポケットに手を入れた。

あのペンダントがない。

「やっぱり、ダメだった。紅葉が言う砂漠の国なんて、夢すら見れなかった。」

「そう……」

図書室で緑のペンダントを見つけて以来、砂漠の国へ行けるのは、それのお陰だと思ってた。

でも違う。

緑のペンダントを持っていたからと言って、誰でもあの国へ行けるわけではない。

「だから、紅葉がその砂漠の王子様に出会ったのは、運命みたいなもので……」

「運命?」

私の体の中で、トクンと、何かが波打った。

「だから、その王子様とどんな運命になろうと、その……」

必死に何かを伝えようとしている光清。

私は持っていたパンフレットを、光清に投げつけた。

「うわっ!」

「ばーか!その王子様には、婚約者がいたのよ。私は振られたの!」

「うそ!」

「ホント!」

東寺の広い境内で、私と光清は、訳もなく走り回った。
< 292 / 300 >

この作品をシェア

pagetop