替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする
「すぐにその子を殺せ!」

「な、なんと…」

トーマスは青い顔をして、赤子をみつめていた。



「さぁ、今すぐに始末するのだ!」

「は、はい…」

「待て……」

私は、ヴァリアンの紋章が刻まれたペンダントを、その子の首にかけた。
ヴァリアンでは、女性が産まれた時にはペンダント、男性には剣が贈られる。
それが、祝福の儀式なのだ。



それは、産まれた日に死ななければならない我が子への憐憫の情だったのか…
それとも、他の感情だったのかはわからない。



とにかく、私はその子のことを忘れることにした。
なかったことにしようとした。



そして、私はその想い通りに、その子のことを忘れていた。
一度たりとも思い出したことはなかった。
なのに、それが20数年経ってから、ヒルダによって思い出されたのだ。
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