替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする
それでも私達はまだ身動き一つしなかった。
フェルナンさんは、息が掛かる程傍にいるけれど、今はそんなこと、気にしてる余裕もない。



どのくらいの時が流れただろう…



「……ちょっと見て来る。」

フェルナンさんが急に立ち上がった。
私は、何も言えずただその場で固まっていた。



「……大丈夫そうだ。
今のうちに…」

「は、はい。」

私は、まだ体ががくがくしてたけど、無理やりに立ち上がった。



「裏道を通って帰ろう。」

「はい。」

フェルナンさんの言う通りに、私は彼の後を着いて行った。
そこは来た時とは違い、山の中の細い道だ。
いつの間にか夕暮れになっていたし、なんだかちょっと怖い気がする。



「フェルナンさん…さっきの人達は…」

あまりに不安だったから、私はフェルナンさんに声をかけた。



「……巻き込んでしまってすまない。」

「え?」

私には、フェルナンさんの言葉の意味がわからなかった。



「あいつらが狙ってたのは、きっと私だ。」

「えっ!?
ど、どうして?」

「理由は私にもわからない。
でも…おばあさんと私は、ずっと他の人間とは接触しないように生きて来たし、おばあさんが死ぬ時にも、大きな町へ行くな、人と接触するなと言い遺した。
……ずっとおかしいと思ってたんだ。
きっと、私には何か秘密があるんだと思うんだ。」

フェルナンさんは、苦しそうな声でそう言った。
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