大天使に聖なる口づけを
「なるほど……初恋の人の登場ってわけね……」

納得したかのように何度もくり返すフィオナの口を塞ごうと、エミリアは大慌てする。
「な、何言ってるのよフィオナ!」

しかしそんな様子も微笑ましいと、アルフレッドは目を細めるばかりだった。
「いいね。若い子って可愛いよね」

「あんただってまだ十八じゃないか……かなり年上みたいな言い方するなよ」
夕刻の鐘と同時に、アマンダの店にやってきたアウレディオもまじえて、その日の帰り道はかなり賑やかになった。

(それにしても……)
エミリアはアウレディオと並んで歩くアルフレッドに視線を向ける。

スラッとした長身。
隙のない身のこなし。
よくよく見れば最後に会った六年前とそう変わってはいないのに、始めのうち誰だかわからなかった。
そんな自分がちょっぴり悔しい。

学校を卒業して遠くの街に行くアルフレッドを見送った時は、エミリアはまだ九歳で、彼のマントにすがって、『行かないで! 行かないで!』と泣くばかりだった。

ある日ふいにいなくなって会えなくなってしまった母と、この三つ年上の幼馴染を、どこか重ねて見ていたのかもしれない。

『大丈夫だよ、エミリア。絶対に俺は帰ってくる。この街に帰ってくるからな』
大きな手でエミリアの栗色の頭をポンと叩いて、アルフレッドが行ってしまってから、もう六度の秋が来た。

いつかこの坂道を登って現れるんじゃないかと、部屋の窓から外ばかりを見ていた頃は過ぎ、いつの間にかエミリアにも他に気になる人ができ、新しい生活の中に楽しみを見つけもした。

けれど幼い日に大好きだったアルフレッドは、やっぱり今でもエミリアの中では特別だった。
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