大天使に聖なる口づけを
「懐かしいな。すっかり変わった場所も多いけど、昔と全然変わってない所もある。エミリア……あの広場の隅の砂場を覚えてるか?」

「もちろん覚えてるわ! 私がディオと一緒にお城を作ってたら、いつだってアル率いる男の子たちに邪魔されたのよ!」

口を尖らせて苦言を呈したエミリアに、アルフレッドは大きな声で笑いだした。

「ハッハッハ。俺もまだまだガキだったからなあ。そんなことやったって逆効果だって今ならわかるんだけど……」
「逆効果?」
「ああ。ただの焼きもちだったんだよ」

エミリアはハッとアルフレッドの顔を見上げた。
紫色の瞳がこれ以上ない優しさを湛えて、エミリアを見つめる。
昔のアルフレッドからはとても想像できない表情。
けれど再会してからは、何度も何度もエミリアを動揺させる表情。

エミリアは慌てて、視線を前に向け直した。
心臓が爆発しそうに激しく脈打っている。
黙っていると息が詰まりそうで、何かを話さなければと思うのだが、何を話したらいいのかまったく浮かんでこない。

パクパクと口を開けたり閉めたりをくり返すエミリアに、プッと小さく笑って、アルフレッドは唐突に口を開いた。

「俺さ、親父とお袋の本当の子供じゃなかったんだ」

そのあまりの内容に、エミリアははたと足を止めた。
しばらく固まった末に、目を剥いてアルフレッドを見上げる。

そんなエミリアに視線を落とし、アルフレッドは大きく破顔した。
「何だ? やっぱり凄い顔だぞ、エミリア」

屈託のない笑顔に、エミリアはアルフレッドの強さを感じた。
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