大天使に聖なる口づけを
小さな頃からどんな時でも自分の力を信じて、それを出し切ることに躊躇がなかったアルフレッド。
彼はエミリアの知らない土地でも、そのままの心で成長し、そしてこんなに強い人になった。

「夫婦揃って事故に遭って、いよいよダメだって言い渡された時、見守る俺を呼び寄せて、実は養子だったなんて言うんだ。まったく……天地がひっくり返ったような驚きだったよ」

軽い口調と明るい声とは裏腹に、アルフレッドの話の内容は重く辛いものだった。
けれど驚きや悲しみや寂しさ、いろんなごちゃ混ぜの感情を自分自身で乗り越えたからこそ、こんな話だって笑ってすることができるのだろう。

アルフレッドのそんな強さに、エミリアは激しく焦がれた。

「今まで信じてきたものが全部嘘だったような気がしてさ。しばらくは仕事も何もかも全部嫌になって、自暴自棄になったこともあったけど……でもおんなじ環境にいるあいつの言葉だけは、不思議といつでも心に響いた」

『あいつ』という言葉に、エミリアは思わずピクリと反応した。
色素の薄い柔らかな髪が、目の前をチラチラする。

「帰ってきたくなったんだよ……あいつがいる街に。そしてエミリアがいる街に……!」

不意に真顔になって自分を見つめるアルフレッドに、エミリアはどうしようもなくドキドキしていた。
しかしどうやらそのドキドキは、単純にアルフレッドのせいばかりとはいえないようだ。

彼が口にした『あいつ』という言葉に、どうしようもなく動揺する。
そんなエミリアに気づいているのかいないのか。
アルフレッドは少し切ないような表情で、いつもとは違う笑い方をする。

「帰ってきてよかったよ。きっと何かが変わる気がする」
さし出されたアルフレッドの右手を、エミリアはぎゅっと握りしめた。

「うん、私も。私もそう思う……」
漠然とした予感はあるものの、それがどういう変化なのか。
エミリアにはまだ、本当にはよくわからないままだった。
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