大天使に聖なる口づけを
「消毒しなきゃね」
道具を捜そうとしたエミリアの手を掴み、アウレディオは自分の傷の上にかざす。

「それよりこうしてて」
傷に触れたところから、エミリアの手は異常に熱くなって、白く輝き始めた。
その眩しさに目を細めながら見てみれば、てのひらの下ではたちまち傷が消えていく。

「え? ええっ?」
すっかり綺麗になったアウレディオの腕と、自分の手を驚いて見つめるエミリアに、アウレディオは、
「やっぱりエミリアにもできた」
と感慨深げに呟いた。

言葉の意味から推測すると、以前にもやってもらったことがあるのだろうか。
あるとしたらまちがいなく、それはエミリアの母にだろう。

「『天使の癒しの手』って言うんだってさ。この間リリーナに教えてもらった。お前っていろいろと天使の能力が使えるから、ひょっとしたらできるんじゃないかって、前から一回試してみたかったんだ」
まるで目新しい発明品か何かのように表現されて、エミリアは頭を抱える。

「もう……もう好きにして……」
母が帰ってきたあの日から、ごく普通の一般人のつもりだった自分が、どんどん常識から外れていく。

その驚きにも次第に慣れつつある自分が悲しく、頭を抱え続けるエミリアに、アウレディオがそっと声をかけた。
「エミリア」
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