大天使に聖なる口づけを
「ん……何?」
まったくいつもの調子で返事をしたのに、返ってきた言葉はとんでもないものだった。

「キスしようか」

「へっ?」
あまりの唐突さに驚いて飛び跳ね、エミリアは勢い余って、寝台の天蓋を支える支柱におでこをぶつけてしまった。

「おい大丈夫か?」
冷静に声をかけられて、がばっとアウレディオをふり返る。

(大丈夫じゃないわよ! いきなり何言ってんの!)

いつの間にか寝台の上に腰を下ろしていたアウレディオは、優しげな顔で微笑んでいた。
ずいぶん長い間封印していたそんな顔を、今この時、真っ直ぐに向けてくるなんて反則だ。

得体の知れない自分の能力と、アウレディオの突然の提案に、どちらかといえば怒りに似た感情が大きかったはずなのに、それがすっと萎んでしまう。
胸が締めつけられるように痛くなって、また涙がこみ上げてきそうになる。

エミリアは俯いて、こぶしを握りしめた。
「ディオ……ひょっとして自分がミカエルだと思ってるの?」

涙まじりのエミリアの声に、アウレディオは困ったように、曖昧な笑顔を返した。
「だってお前がそう言ったんだ」

「私が?」
思いがけない返答に、瞳を瞬かせる。
< 162 / 174 >

この作品をシェア

pagetop