大天使に聖なる口づけを
「リリーナ……大天使だったのか?」
「隠しててごめんなさい。実はそうなの」
「名を継ぐって?」
「四大天使は、代々自分の子供に名前を引き継ぐって話はしたでしょ? ミカエルの名を継ぐアウレディオと一緒。エミリアは私の娘だから、ガブリエルの名を継ぐんでーす」

意気揚々と説明されて、エミリアは思わず叫んだ。
「ちょっと待って、お母さん! 私、天使なんかじゃないわよ!」

母は大真面目な顔で、腰に手を当てて言い放った。
「いいえ天使です。『天使のお菓子』が作れて『天使の時間泥棒』も『天使の癒しの手』も使える人間なんて、い・ま・せ・ん。それにエミリアは自分の気持ちを犠牲にしてまで、『聖なる乙女』としての任務のほうを優先したのよ! こんなに天使らしい天使は、天界にだってそうそう、い・ま・せ・ん!」

堂々と自信満々に言い切ってくれるその論理には、エミリアは唖然とするしかなかった。

アウレディオはふと、大きな蒼い瞳に鋭い色を浮かべる。
「ひょっとしてリリーナ。エミリアの天使としての力量を確かめに来たのか? 俺を探し出すなんてのは口実で?」

言いながらだんだん表情が険しくなっていくアウレディオが全てを言い終わる前に、母は体を大きく二人のほうに乗り出して、うんうんと激しく頷いた。

「そう! そうなの! アウレディオは私が見つけた十五年前から、とっくに天界の監視下に置かれています……ごめんなさい。私は人間と天使のハーフのエミリアを、天界の人たちにもちゃんと私の後継者として認めてほしくて、あっちに行ったりこっちに来たりがんばってるの!」

母の返答に、アウレディオは本当に頭を抱えた。
「うっわ」

上目遣いにじっと母の話を聞いているエミリアの怒りがいつ爆発するかと、頭が痛くなったようだった。

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