大天使に聖なる口づけを
エミリアは唇を噛みしめて、よく感情を抑えていたが、母の説明が終わったらしいことを受けて、満を持して口を開いた。

「お母さん……言いたいことはそれだけ?」
妙な気迫のこもった声に、母は小さく飛び上がった。

「は、はい!」

「それだけなのね?」
念を押す声に怯えきった母が、助けを求める視線をアウレディオに向け、アウレディオは「仕方ないな」とばかりに大きくため息を吐いて、エミリアの背後にまわりこんだ。

「それだけだったらー!」
大声を張り上げようとしたエミリアは次の瞬間、背後からアウレディオに抱きすくめられた。

「エミリア。もういいだろ? これからも今までどおり一緒にいられるんだから……な?」
耳元近くで囁かれた声に、エミリアは一気に体の力が抜けた。

(そっか……これからもディオと一緒にいられるんだ。これまでどおりの生活……普通に働く日々……)

目を閉じて、目まぐるしかったこの数日間のことを思い浮かべた。

体力的にも精神的にも、エミリアは本当に限界までがんばった。
それというのも母と一緒に暮らしたかったから。

好きな人と母とを天秤にかけて、あんなに悩んだことも、これで全て解決したのだ。
こんなに嬉しいことはない――。

「なんて……喜べるわけないでしょう!」
エミリアはカッと瞳を見開いた。

ついに怒りを爆発させたエミリアに、アウレディオは、
「やっぱり無理か」
と呟き、母は覚悟していたように首を竦める。
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