大天使に聖なる口づけを
日頃は人の出入りも少ない隣の邸に、その日は朝から大勢の人が集まっていて、それがなぜなのかもわからないエミリアは、大喜びではしゃぎ回っていた。

しかしいつもは一緒になって走り回るアウレディオが、黒い服を着た大人たちに囲まれて、じっと佇んでいる様子を見て、(どうしたのかな?)と疑問に思う。

『一緒に遊ぼう。ディオ』
どんなに誘ってみても、アウレディオはぎゅっと唇を引き結んだまま、静かに首を横に振るだけだった。

あの日以来、アウレディオはお日様のように輝いていた笑顔を封印してしまった。
何があっても表情を変えず、感情を表に出すようなこともめったにない。

そんな彼が時折子供らしい表情を見せ、本当の母親のように慕っていた人物が、エミリアの母だった。

母もまた、ひとりぼっちになってしまった隣家の小さな男の子を、実の子供であるエミリアと同じように可愛がった。

最初にアウレディオに弁当を作り始めたのは、エミリアの母。
それを引き継いだのがエミリア。
だからアウレディオがひさしぶりの母の味に感動したのも、母が帰ってきたことをこんなに喜んでいるのも、エミリアにはよくわかる。

(わかってる……わかってはいるんだけど……)

釈然としない思いを抱えながらぼんやりと歩いていたので、エミリアは急に立ち止まったアウレディオの背中に、思わずぶつかりそうになってしまった。
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