大天使に聖なる口づけを
「どうしたの?」
自分より頭一つぶんも背が高いアウレディオの肩越し、その視線の先をたどってみると、そこには他ならぬエミリアの母――その人が立っていた。

腰まである長い金髪。
真っ白でふわふわなドレスが良く似あう華奢で小柄な体。
とても十七歳の娘がいるとは思えない、その若さと美貌。

すれ違う人はみな、ふり返って母を見て行ったが、その中の誰にも負けないくらい紅潮した顔で、アウレディオも一心に母を見つめていた。

(そうだよね。やっぱり嬉しいよね……)
なぜだかため息混じりにエミリアが心の中で呟いた時、二人の横を走っていった小さな男の子が、ちょうど母の目の前まで行ったところで、何かにつまづいて転んでしまった。

大切に握りしめていた大きな鳥の羽根が、建物の間を吹き抜ける風に煽られて、見る見るうちに夕焼けの空へと舞い上がっていく。
ひらひらと上空に上がり、通り沿いに並んだ高い木のてっぺんあたりに、ふわりと引っかかってしまった。

泣き出した男の子を、母が慌てて助け起こしている。
服についたほこりを払い、怪我をしていないかを確認し、おそらくは優しい言葉をかけてあげている。

けれど、男の子が必死に指差している羽根だけは、さすがに母にもどうすることもできない。
母は困ったように何度もあたりを見回していた。
しかし男の子の連れの人も、手助けしてくれそうな通行人も、誰も通りかからない。
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