大天使に聖なる口づけを
「なあ、まさか、あの方じゃないよな……?」
「あの方って?」

アウレディオの視線の先をたどってみると、机の上にいくつか飾られた額絵に行き着く。
父と母の肖像画。
家族の絵。
エミリアが描かれたもの。
友達だちの中で笑うエミリア。

その中に混じって一つ、あきらかに額の格も違う立派な絵があった。
国王お抱えの絵師となった父が、たびたび描かせていただいている王室の肖像画。
あまり良い出来ではなく、献上し損ねたものの中の一つを、エミリアは父から貰ってそこに飾っていた。

エテルバーグ王家には、国王と王妃、三人の姫と一人の王子がいる。
荘厳な玉座に座した国王陛下の隣。
大きな存在感を示しながら佇む王子――フェルナンド。

太陽の光を集めたかのような黄金色の髪に、深い湖のような碧の瞳。
どこにいてもパッと目を引くその容姿から、華やかなことが大好きで明るく友好的な性格まで、国民の敬愛の情を集めて止まないこの国の王子。

「そういえば……王子は素敵だ素敵だ、ってエミリアったら昔から騒いでたわね……」
真剣に考え始めたフィオナに、エミリアは目を剥いた。

「だってそれは! この国の女の子だったらみんなそう思うようなことでしょう!」

「そのわりには、かなり小さな頃から結構しつこく言ってる」
割って入ったアウレディオの言葉に激しく焦りながらも、エミリアは必死に訴えた。
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