大天使に聖なる口づけを
三階部分から大きく中庭に向かって突き出した露台。
真紅の絨毯が敷かれ、色取り取りの花に飾られたその場所に、まもなく王室の方々が姿を現わすはずだった。

見上げる首は痛いが、目を凝らせばそこにいる人の表情も見えないことはない。
思いがけずいい場所に配置されたエミリアは、アウレディオとフィオナから、
『どうにかして、王子に存在を気づいてもらうこと!』
というかなり無茶な注文を出されていた。

(この大人数の中、しかもこの大歓声の中、あまり目立ちそうにもない一衛兵に、殿下が気がつくわけないでしょう!)
二人に返した怒りの言葉を、胸の中でもう一度くり返すエミリアの目に、露台の上で忙しく立ち回り始めた侍女たちの姿が映る。

(いよいよだわ)
エミリアの胸がドキンと跳ねたところで、貴人の登場を告げるファンファーレが鳴り響き、空に向かって空砲が打ち出された。

花かごを持った少女たちが、露台の下に集まった人々の上に、花びらの雨を降らせ始める。
舞い散る花びらの下、優雅な動作で王家の方々が、露台へと歩み出て来た。

黒い式典服を身に纏ったフェルナンド王子が、最後に姿を現した瞬間、聴衆の興奮も最高潮に達したように、エミリアは感じた。

(ああ、なんて素敵なんだろう……!)
母の仕事のことも、アウレディオとフィオナの注文もすっかり忘れて、ただただ見惚れずにはいられない。
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