あの夏に見たあの町で


黒塗りの高級車の助手席のドアを開け私に座るよう促す




私が乗り込むとドアを優しく閉め、私の鞄を後部座席へ放り込み自らが運転席に乗り込んだ




エンジンをかけ運転席の窓を開ける



運転席の外側には背の高い男性




「悠貴、あとは頼んだ」



シートベルトを引っ張りながら言う




悠貴と呼ばれた背の高い男性は「かしこまりました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」と頭を下げる





「出すぞ」と言われ、慌ててシートベルトを締めると同時に車が走り出した





会社の最寄りのインターチェンジを抜けて、まだ通勤ラッシュで混雑している高速道路を走る









2時間ほど走り、車窓から見える景色は山やトンネルに変わっている




私も実家に帰る時に使う、よく知っている道路






とは言え、車を出してからずっと無音




会話もなしで、睡魔にもそろそろ負けそうだ





この高速道路はトンネルが多くて、運転していても本当に辛い





「あの...専務、ちょっと休憩しませんか?」




大きなサービスエリアまであと1キロという所で車に乗って初めて口を開く





「ああ、そうだな」




チラリと一瞬だけこちらを見て微笑んだ専務




その表情ももう新とは違うものに見えるようになった










< 18 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop