あの夏に見たあの町で
山間の高原にある大きなサービスエリアで休憩をとる
お手洗いを済ませ、自販機で飲み物を買った
外のベンチに座る専務を見つけ歩み寄る
長い脚を組んで背もたれに肘を掛けている
山々に囲まれたこの高原から見える一番大きな山を見つめるその横顔は女の私から見ても綺麗だった
近付くと専務がこちらに気付き、「行くか」と立ち上がる
「え?もういいんですか?」
専務も同じタイミングでお手洗いに行ったから、まだどれほども休憩なんてしてないはず...
「山なんてこの先いくらでも見られるからな」
笑いながら私の横を通り過ぎ、コーヒーの空き缶をゴミ箱に入れる
遠隔操作で車のエンジンをつけて、歩きながら「暑いな」とスーツのジャケットを脱ぐ
数分とはいえ、この炎天下に停めてあった黒塗りの車の中はサウナのような暑さになっていた
冷え始めた車内に乗り込み、シートベルトを締める
ジャケットを後部座席に投げて運転席に乗り込んだ専務から
「これ持ってて」
と、左手が差し出されたので、慌てて両手で皿を作り受け取る