あの夏に見たあの町で
自嘲して、本社があるオフィスビルに入る
ちょうど1階に来たエレベーターに彼女が乗っていた
あの頃と変わらない栗色の髪に白い肌、透き通るようなエメラルドの瞳
大人になって一層美しくなったその姿に目を奪われた
地面を見ながら歩いていた彼女は動けずにいた俺に肩をぶつけ、顔も上げずに「すいません」と謝った
俺もハッとして、「いえ、こちらこそ」とだけ言ってエレベーターに乗り込んだ
扉の方へ向きを変えると、閉まる扉の隙間から立ち止まり振り返ろうとする彼女が見えた
新と同じ声ってだけで振り返る程にまだ新を吹っ切れていないということか...
エレベーターを10階で降りて、専務室と書かれたドアを開ける
既に悠貴が来ていて、座っていたデスクから立ち上がった
「あーいい、いい、2人だけの時にそう言う堅苦しいのなしな」
立場上は専務と秘書になったわけだが、俺は悠貴のことを秘書である前に、親友でありビジネスパートナーだと思っているから2人の時に堅苦しいのはゴメンだ
片手を振る俺にフッと笑いを零し、「朔らしいな」と悠貴は元の椅子に腰を下ろす