あの夏に見たあの町で
悠貴がジジイのとこにはもう顔を出したと言ったので、ひとりで社長室に行った
「随分とあちこち飛ばして、帰らせるのも急すぎるだろ」
9年半分の文句を口にする
「逞しい顔付きになったな」
俺の言葉を無視して、満足気に笑う
「今動いている新館をお前に任す。データは送ってある。紙資料が下の階にあるから必要ならそれも使え」
久しぶりの言葉もなく仕事を押し付けられて社長室を出された
仕方なく専務室に戻り、自分のパソコンと向き合う
新館予定地を見て、俺に押し付けられた理由も分かった気がした
一通り送られてきたデータを確認し、悠貴を連れてひとつ下の9階に資料を見に行くことにした
俺が資料を選別し、悠貴に複合機でスキャンしてパソコンに送らせていると、見知らぬ女性社員がやってきて入口で俺を見て固まっている
「え?...新くん?...そんなわけないよね」とこけしのような風貌の女性社員は独り言を言っている
「兄を知ってるの?」
と俺が新の弟であることを伝える
「新くん弟さんいたの!?ご家族はお母さんだけって言ってたような...」
今度は驚き首を傾げている