滴る鼓動、振り向く夏の日、恋の予感。
滴る鼓動、振り向く夏の日、恋の予感。
「やっとこっち見たな」

彼のその声に、滴る汗を拭いながら見上げた。
その日は、暑い上にじめじめとしていてすっきりしない夏の始まりの日。

『今日から夏ですよ! 暑くなりますよ!』ってきっちり季節が変わってほしい。
雨の後のアスファルトのような臭いと、暑くて水分を奪われる日差しに不機嫌にならないわけはない。

進路指導室でいつまで経っても来ない先生を待ってる時だった。

――い、――おい。

上靴の名前が薄れてきたなあってぼんやり考えていたら、私の頭に名前が降ってきたんだ。

「おい、美空」
「え、……蒼人センパイ」

「やっとこっち見たな」

ニッと笑うと、八重歯が見えた。
先輩は暑そうにシャツを摘まんで仰ぎながら、慣れた手つきで冷房のスイッチを押した。
「なんで高校生がここにいるんですか?」
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