滴る鼓動、振り向く夏の日、恋の予感。


蒼人先輩は、私の一つ上で、私の志望校に通っている水泳部の先輩だった。


 去年、中学生の部の全国大会でクロールと自由形の新記録を録った、オリンピック候補生だ。順位は上から四番目だと、当時自慢していた気がする。

 チョコレイト色の肌に、短く整えられ塩素負けして茶色かかった髪、やんちゃそうで意地悪だった顔は、高校になってスッと引き締まり思わず見とれてしまった。


「高校のプールの温度管理の機械の故障だって。今日は筋トレっていうから、後輩たちに紛れて泳がせてもらおうかなって」
「うちは一昨日期末テストが終わったばかりですよ。プールの掃除も明日からです」
「まじかよ。じゃあここでも泳げねえのか」

残念そうにため息を吐きながらも、私の隣に座ってきた。
私の隣に、未来のオリンピック選手兼男の人魚が座っている。
それだけで心臓が止まってしまいそうだった。

先輩は誰よりも速く、誰よりも綺麗なフォームで泳ぐ人。
後輩の私は、憧れて手の届かない先輩を見ているだけだった。

「で、なんで進路指導室にいんの?」
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