滴る鼓動、振り向く夏の日、恋の予感。


「ひえ。褒めても受験生からは何も出てこないですよ、飴とかお菓子も持ってきてません」
「いるかよ」

ククッと楽しそうに笑った後、私の顔を見ながら、机に倒れ込んだ。
見上げられて、その鋭い瞳に吸い込まれそうでドキドキする。


数か月会っていないだけなのに、先輩は前より日焼けしているし、大きく感じる。身長も伸びている気がする。しかも学ランだったのに、今はブレザーだ。

 その大きな変化にも私の心臓は落ち着かない。
 大きく跳ねる鼓動は、古い冷房のモーター音でかき消されていく。未だに涼しくならない生温かく少し埃臭い匂いに、先輩と私の額にうっすらと汗が滲む。

「なあ」
「なんですか」
「東高校に行くのは、水泳部があるから?」
「……まあ、そんなところです」
 可愛げない答えに、先輩は目を細めた。
伸ばされた手が、汗で濡れているように見える。
近づいてくる手が、私の心臓を掴むのかと身構える。

けれど、その手は優しく私の髪を掴むと指先で擦り合わせて遊ばれた。
何をしてくるのか分からず目を逸らせなかったら、先輩の唇が動いた。

「俺がいるから?」
「えええ?」
「うける。そこまで動揺すんなよ。傷つく」
< 4 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop