イジワル専務の極上な愛し方
専務は、社交的な性格で、人脈が広い。その分、女性との関わりも多くて、今みたいに業務中だというのに、女性から電話がかかってくることも少なくなかった。

それも、どこかの社長令嬢だったり、ときにはモデルさんもいるから驚きだ。さすが、イケメン専務はモテるんだなと感心するけれど、その女性たちと軽いノリで会話をしていることに嫌悪感があった。

そういう思いもあり、みんなが想像するほど、専務と一緒にいることに”特別感”はない。

「それでしたら、きっぱりお断りをされたらいいのに……」

いつも思うのだけれど、どうして曖昧な返事をするのだろう。さっきだって、また連絡すると言えば、相手の女性だって期待を持つかもしれない。

そういう感じであしらうことが多く、よく今まで女性関係で大きなトラブルになっていないなと、ここも感心してしまっていた。

「きっぱり断っても、しつこいんだよな。また連絡するって言ったほうが、意外と自然消滅できるんだよ」

「そうなんですか……?」

「そうだよ。向こうは、俺から連絡するのを待ってる。俺が連絡すると言った以上、鬱陶しいと思われたくないから、自分からは電話をしない」

だから、自然消滅ができるってこと? ほとほと呆れてしまうような理屈に、返す言葉もない。専務秘書になって三か月、総務部の頃では見えなった専務の”素性”を知るたびに、ため息が出そうになってくる。

「そろそろ、出ましょうか?」

夕方からは役員会議で、準備をしなければいけない。腕時計で時間を確認すると、専務が立ち上がって伝票を手に取った。

「あっ、専務。ここは、領収証をもらいますので、私が支払います」

役員の外回りは、ランチが経費で落ちることになっている。専務が知らないはずがないのにと、不思議に思いながら私も立ち上がると、彼は当たり前のように言った。

「俺が払う。経費の節約だよ」

ひらひらと伝票を私に見せた専務は、足早にレジへ向かう。

「えっ、でも……」

経費で落ちると思って、あまり値段を考えずに頼んでしまった。心地悪さを感じながら、彼を小走りで追いかける。

「気にしなくていいよ。値段もな」

肩越しに振り向いた専務は、意地悪そうな笑みを浮かべてそう言った。
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