冬至りなば君遠からじ
 先輩が目を細めて凛に尋ねた。

「嫌いの反対は何だ?」

「好き、です」

「好きとは何だ?」

 凛の顔が赤くなった。

 僕はそんな凛をじっと見てしまった。

 火照った頬が桃のようだ。

 意外と肌が透き通るように白くて、照れるとこんなに赤くなるんだ。

 こんなに細かくはっきりと凛の顔を見たのは初めてだった。

 僕ははっきりと凛のことをかわいいと思った。

『好き』について考えている凛はずっと見ていたくなる表情だった。

 凛が僕に話を振る。

「ねえ、朋樹、好きってどう説明すればいいの?」

 顔が熱くなる。

 今度は僕が汗をかく番だった。

 凛にそんな質問をされて、動揺している自分を自覚するともっと動揺してしまう。

 好きって何だよ。

 頭の片隅にいやらしいことが浮かびそうになってあわてて消す。

 違う、今はそういう話じゃない。

 僕たち二人の動揺を見て、先輩が静かにつぶやいた。

「嫌いになるのは好きだからだな。好きでないならば嫌いにはならないからな。好きでないものはどうでもよいものだから嫌いにもならないだろう」

 確かに理屈ではそうだ。

「好きだから喧嘩するんだ。好きであればあるほど、深刻なんじゃないのか」

 幽霊にしては論理的だし、説得力がある。

 凛も何度もうなずきながら先輩の話を聞いていた。

 ふと、僕は凛と喧嘩したことがないような気がした。

 つかみ合いとか、ちょっとお互いに不機嫌になったことはあるけど、深刻な喧嘩ではなかった。

 気持ちは分かり合えていたから、すぐ仲直りしたし、誤解は解けた。

 ポニーテールを引っ張ってしまった時も、すぐに反省したし、ちゃんと受け止めてもらえたと思う。

 それはつまり、嫌いになるほど好きでもないということか。

 凛に嫌われないのは好かれているわけでもないからなのか。

 また分からなくなってしまった。

 僕は頭が悪すぎる。

 違うな。

 僕らの喧嘩は仲直りとセットだった。

 凛が僕を受け入れるつもりがなかったら、あのまま終わっていただろう。

 凛が僕を許してくれていたから、仲直りができたんだ。

 お互いに好きだから仲直りもできる。

 当たり前だけど大事なことだ。

 今までそんなことも意識せずにいられたのは、ずいぶんと僕にとって居心地のいい時間だったからなんだろう。

 それをあたえてくれていたのは凛なんだ。

 ただそれは好きということとはなんか違うんだ。

 凛と高志はどうなんだろう。

 高志が誠実になれば凛の気持ちを取り戻すことはできるはずだ。

 ただ、それはもちろん、高志本人が頑張らなければならないことだ。

 このままではどうにもならないのは確かだ。

 高志がちゃんと向き合えば、凛だって僕と同じように受け入れるだろう。

 僕らはずっと一緒に生きてきたんだから。

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