God bless you!~第10話「夏休みと、その失恋」

まさかそれ以上の進展は無いだろう

期末試験が始まった。
2学期までは内申に響くため、気を抜くことは許されない。
期間中、俺と桂木は学校の図書館で、試験範囲の苦手克服に燃えた。
桂木のリサーチが効を奏してか、数学はどうにか乗り越える。日本史は大当たり!西郷隆盛が大活躍であった。
右川はと言うと……数学はいつものように余裕と見えた。他の教科は、時々アタマを掻きながらも奮闘している。右川亭を離れてからの授業はちゃんと起きているので大丈夫だろう。(多分。)
休憩や放課後、黒川と肩を並べているさまは、相変わらずのシラけた抜け殻状態で、2人どこで何をやってるかしらないが、これ以上の進展は望めないように思える。
……吉森先生と目があった。
そうだった。現代文の試験中だ。
カンニングじゃありません……すぐに自分の問題用紙に目線を戻す。
そう言えば、昨日の事。HRの時間に、つい数学の教科書を開いて内職していたらば、吉森先生にめざとく見つかって、「度胸あるねー。さすが議長」と嫌味でもって見損なわれた。
さーせん。
昨日の分も一緒に頭を下げておくとする。
吉森先生が微笑みながら、真横を通り過ぎた。
それに黒川が気付いて、怖い顔で俺を睨む。
吉森どころじゃないだろ。もうお前にはちゃんと彼女がいるんだから。
俺は別に吉森先生のお気に入りでもなければ問題児でもなく、ただ生徒会や1年からの担任でオマエよりは知られているというだけの事……そんなこと黒川だって知っている筈。
右川とだって、生徒会で一緒にやっているという、それだけの繋がりだ。
思えば、黒川が俺に対して敵対心をむき出しにする事が、これまでにも度々あった。だが、永田のように体を張ったケンカまでには発展していないし、重森ほど険悪でもない。
黒川が右川にちょっかいを出すのも、もしかして俺に向かう対抗心から暴走しているんじゃないかと疑ってみる。思い当たるフシがある。仮にそうだとして、右川のヤツ、そんなのと付き合ってて平気なのかと、やっぱりそこに来る。
以前の右川なら山下さん絶対だったし、黒川なんか相手にもしなかっただろう。今はちょっと弱ってる時だから、どうなるか。
しかし、わざわざ選んだ相手が、よりにもよって終わってる黒川とは……言いたくはないが、右川自身が俺にケンカを売ってるんじゃないかと思えてしょうがない。
「はい、終わり。集めまーす」
全教科が終わった。
ぼんやりしていたら、そこにノリがやって来て、
「洋士、今日部活、出るだろ?」
「出る」と答えた。
聞こえた筈だ。桂木は側にやって来なかった。
すると、「右川、今日一緒に、帰るだろ?」と、黒川がすぐさま重ねる。
ほらぁ~。俺に対する対抗心を確実にした。
「あー……」と、右川は後ろを振り返りもせず、ぼんやり。
なかなか返事をしない右川に、黒川はジリジリ来ていた。
黒川に分かるように、俺は鼻で笑う。
笑った俺を見て、黒川は益々イラついた。こっちは、ますます可笑しい。
所詮、一ヶ月限定なんて言い出す辺りからオカシイのだ。
100パーセントお遊び。真剣とはどうしても思えない。
一緒にツルんでいるのも、右川の親父が迎えに来るまでの事。
まさかそれ以上の進展は無いだろうと、俺は信じて疑わなかった。
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