God bless you!~第10話「夏休みと、その失恋」

「君って、そういう男なの?」


8月の予選大会に向けて、5泊6日、毎年恒例の合宿に入る。
ノリは学校訪問で欠席だった。
あれ?聞いてないゾ。
そう。
これは、大学訪問と言う口実の元、ただの旅行である。
彼女と一緒。親には内緒。
昨日、1日体育館を占領して練習を終えた帰り道。
ノリに志望校を変更することを打ち明けたら、「どこだって、洋士は大丈夫だよ」と、いつもの穏やかな口調で持ち上げられて、悪い気しない。
だがよくよく聞くと、「もし国立落ちたら、一緒に関西に行こうよ。その後の私立2次試験もたくさんあるからさ」などと、のたまうから油断できない。
大丈夫かどうかは微妙になってきた。
合宿中はバレーに集中する。そう決めている。
古屋先生の塾から、8月の講習用にとテキストや課題をたっぷり渡された。
予習の意味を込めて夜中に開いてみるけれど、いつの間にか寝ている。
あんまり進んでいない。古屋先生から紹介されて買った問題集まで持ってきているのに、まだ1度も開いてなかった。
猛暑の中、まずは合宿所の準備に取り掛かる。
学食を擁する別館の2階が、毎年の男子バレー部に宛てられている。
女子はその上、3階に。掃除をして、荷物を整えて、それぞれが割り当てられた場所に落ち着いた。
3食はその学食で喰らう。毎食、俺達は学食のオバさんを手伝って準備をする。片付ける。(この時点でオバさんは消えている。)
夏の合宿。
剣道部は、武道場で。柔道部は外部の道場で。
水泳部は、PTAにつてがあるとかで、山梨の別荘にお世話になっていると聞いた。吹奏楽部は今頃、長野の避暑地でコンサート……こういう時、思うのだ。
「あーあ。いいなぁ。てか、これって贔屓じゃね?」
バレー部女子部員が、俺の気持ちを先回り。そして、「あんたは生徒会として、どうなの?この格差を見過ごすの?あたし達もどっか行こうよ」と来る。
「いや、俺、議長だから」
この頃は、自然と口を衝いて出るようになった。
何の迷いも無く、噛みもせず、スラスラと……猛暑だというのに薄ら寒い。
合宿は早朝から、走る。
毎年のように、剣道部の朝錬と一緒になる。付かず離れずで同じ道を行く。
猛スピードでやって来たサッカー部が、存在感をアピールしながら、列に加わる。誰がけしかけた訳でもないのに、勝手に速度を上げる。
途中から陸上部も一緒になって、団体戦さながらに先を争う。
……毎度の事だった。
そしてランニングに集中している訳では、決して無い。
「暑ちぃ。煮えるぅ」「ていうか、焦げるー」「ミサンガ臭ぇ!」「洗え!」「バカ言うな。つーか誰かスプレー持ってない?」「コロンじゃ無理だろ。その悪臭」「違ぇワ!サロンパス!」「あ、俺も欲しい。突き指しちゃって」「汗止めなら、今持ってるけど」「いらねーワ!サロンパス!」「そういうの終わってからにしろよ」「持ってないのかよ。サッカー部のクセに」「ミサンガ臭いクセに」「消臭トイレ用使えば?」「暑いからウォシュレット掛けて~ん」「落ち着け。それ普通にシャワーでいいだろが」
臭い臭いと、サッカー部が叩かれて、今日の朝練は終わった。
こういう時、思うのだ。
サッカー部に関して、それ以外、ディスる要素が見つからない。
学食で朝飯を喰らって、早速、練習。
今日も……バスケ部には右川の兄貴が来ていた。
休憩時間に水場に行けば、バスケ部メンバーに遭遇。そこで右川の兄貴から、「久しぶりだね」と声を掛けられた。
その場にいた永田と桂木が同時に、え!と驚いて目を見張る。
永田はまさしく、え?だったろうし、桂木は、右川一族と、もうそんな所まで急接近したのかと驚いた様子に見えた。怒ったようには見えなかった。
「カズミ元気だよ。なんか毎日遅くまで図書館とか行ってるみたいだし。君のおかげかな」
そんなはずはない。そして、俺は右川が元気かどうかなんて1度も聞いていない。俺のおかげ……。
「それは違うと思います」
遅くまで図書館、それが本当なら喜ばしい話だが、右川の会が正しければ、恐らくバイトだ。家族には図書館通いと言う事にして。
「君って、本当にカズミとは何でもないの?」
「何でもありません。本当に」
だーかーらー、と、うっかり出そうになった。
兄貴の目は、それでも疑うように、上から下まで俺を探る。
「こいつのオンナはこっちですよッ!」
永田が桂木をドン!と小突いた。
兄貴は「へぇ」と、桂木を眩しそうに眺める。
桂木と目が合った。
この場をどう言う事にする?とお互いに探り合って迷っていたら、「あーそれ、今はもう違うんですよ」と、桂木の方から笑顔であっさり認めた。
俺も、慌ててそれに頷く。
これには永田を始め、バレー部を巻き込んで一斉に「「「「「え!?」」」」」と弾けた。黒川が1番驚いた、ように見えた。
永田は鼻息が荒い。
「なんだよッ!次から次へとオンナ変えやがって!今は誰だよッ!」
今だに、過去の元カノを根に持っているのだ。いい加減、しつこい。
誰だッ!誰だッ!と永田に囃し立てられ、バチボコ・パンチを喰らう。
「そんなの居ないって!」と、どんなに否定しても周囲からもポコポコと喰らった。
すると、
「君って、そういう男なの?」
突如、兄貴の鋭い視線が突き刺さる。
大慌て、「いや、違います!違いますから」と徹底的に全否定。
たまにやってくるOBにそんな誤解を植え付けたまま帰られては困る。
「いい加減な事言うな」と永田には、いつもより幾分力のこもった拳骨を喰らわせた。
右川の兄貴は、ボールを片手で器用に操りながら
「ま、どんなゲスだろうが、うちと無関係なら、まいっか」
とか言いながらも、まだまだ疑いの眼差しが晴れていない。
いいかげん男。悪い虫。警戒。
そう決められて、向こうへ行け!と追い払う目だ。
おかげさま。今となっては、そちらの妹側とは世界が違う。
休憩終了の声がかかって、弁解も何も、中途半端なままで終わった。
何だか納得できない。
俺が何したっていうんだ。
受験だって世話して、生徒会だってフォローして、そちらの妹には何もかも全部してやった。それでゲス扱い。パンチを喰らい、人格まで疑われたんじゃほんと報われない。
俺は貴様の妹に粉々にされたんだぞ!と文句の1つも言いたくなる。

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