God bless you!~第10話「夏休みと、その失恋」

「おにいちゃんたち、けんかしてるの?」

右川が〝悪魔のパフェ〟という名のデザートをものの5分で平らげた頃、桂木からメールがきた。おおよそ展開は当たっていたようで、平に謝っている。
「ミノリは、何つってんの?」と、右川から問い詰められ、成り行き上、話して聞かせた。
「それが何で、あたしらが今1番熱いみたいな事になるわけ」
強引にまとめるにも程がある。それは右川と意見が一致した。
「最近、たまに自然体が暴走気味っていうか。桂木って」
以前のように、言葉にして良いかどうか、それを迷う素振りも見られない。
「ふふふ、2人でさっそく暴走?夏を待てずに?もしかして♪」
「誰かの悪い影響だと思うけど」
「志望校変えないでしょー。あたしの影響ぐらいじゃ」
そうとも言えないだろ。
俺は、いつかの立ち聞き内容を反芻した。自分が桂木なら、絶対好きな相手を追いかけるとか何とか抜かして……何の影響も無いとは言わせない。
「でもいいじゃん。そうなったら一緒に大学通えば。同じサークル入って、似たような仲間と合コンして、喰ったり喰われたり、適当にチャラいのと遊んで、ちゃっかり何も無かったみたいに卒業して、成り行き上地味に結婚するとか。あんたにぴったり。あークソ羨ましい。ゲロ出そう」
「いいかげんにしろよ」
もう我慢できない。
「いつまでも面白がるな。俺がどんだけ考えてるか、おまえに分かんのか」
本気で怒ったら、俺だって容赦ないんだから。
思いがけず想像以上の深刻度合いに、さすがの右川も言葉を失って……といった所か。
初めて見る、その表情。
それが分かるなら、ここは許して、引き下がってやっても。
「おにいちゃんたち、けんかしてるの?」
え?
見ると、いつの間にか俺の隣に、小さな男の子が来ていた。
確か、さっきまで向こう隣に居たような……するとママ連の1人がスッ飛んできて、「ごーめんなさいねー」と、子供の手を引っ張る。
引っ張られながら、母親が子供を諭す声が聞こえてきた。
「ケンカしてもいいんだよ。ケンカしても、ちゃーんと仲直りしようね。そうしたら前より、もーっと仲良くなれるんだからね」と、その男の子は引っ張られながらもコチラを振り返り、「おにいちゃんたちも、はやくなかよくなってね」と陽気に手を振った。
何も知らない天使の笑顔。
「よしこ、出るよ」
右川のそれに、異存は無かった。
俺達は〝仲良く〟店を出る。

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