春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
私と維月さんしかいなかった世界に、全てを切り裂くような叫び声が響き渡る。
緩々と視線を声の主へと動かせば、そこには神苑の姫・紗羅さんが凄まじい形相で立っていた。
わなわなと唇を震わせながら、手に持っていた物を地面に落とす。
今の彼女には私のことなんて眼中にないようだった。
ただ、信じられないという目で維月さんを見ている。
その後ろには、神苑の総長・夏樹さんや幹部の晃さん、村井さんの姿もあった。
彼らも紗羅さんと同じように、維月さんを凝視している。
維月さんは夏樹さんを一瞥すると、紗羅さんへと視線を向けた。
「……君は?」
「わ、私は、紗羅ですっ!柚羽“ちゃん”とは大の仲良しでっ…」
紗羅さんは維月さんの元へと駆け寄り、目にうっすらと涙を浮かべながらそう答えた。
私と紗羅さんが大の仲良し?
冗談じゃない。嘘もいい加減にしてほしい。
「…そう。それで?」
維月さんは「だから何?」とでも言いたげな顔で、先ほどとは打って変わった冷たい声で言った。