春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「え…」
紗羅さんの瞳から、涙がこぼれ落ちた。
これ以上ないくらいに大きく見開かれた瞳には、艶やかに微笑んでいる維月さんが映っている。
「大の仲良しだから、何?そう聞いたんだけど」
維月さんは小首を傾げ、そう尋ねた。
「ど、どうして維月さんがいるのか聞こうと思ってっ…、」
「愚問だね。俺が柚羽のそばにいるのが有り得ないこと?」
「違っ…、」
維月さんはふふっと笑った。
両目から大粒の涙をこぼし始めた紗羅さんを見て、総長の夏樹さんの表情が険しいものへと変わっていく。
「なら何?」
「だ、だって、維月さんは、“ラストクリスマス”でその女に殺されたって聞いていたからっ」
「――その女?」
維月さんの美しい笑顔が剥がれ落ちた。
大の仲良しだとか言っておきながら、“その女”と呼ぶのか、と。
無表情になった維月さんは、私の手を引いたまま紗羅さんとの距離を一歩詰めた。
「っ…!」
「…大の仲良し、と言っていた気がするんだけどな。俺の聞き間違い?」