春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「焦る必要はないから、大丈夫だよ」


そうは言っても、私は思い出したいんだよ。維月さんのためにも。
私がそう思っていることを感じ取ったのか、りとが優しく微笑んだ。


「晏吏の言う通りだよ。急がなくていい。…あの人は待っていてくれるでしょ?」


「(…どう、だろう)」


そんなの、わかんないよ。忘れてしまったんだから。でも、維月さんは優しく笑って頷いてくれそうな気がする。自惚れかもしれないけれど。


「とりあえずさ、どっかでお茶でもしようよ。駅の方にお店いっぱいあったしー」


しんみりした空間にいるのが耐えかねたのか、諏訪くんが明るい声音で提案した。

聡美は肩を竦ませながら、「女子みたいなことを言うわね」と笑う。

それにつられるように、私とりとも笑った。

気分転換をしたところで、何かが変わるとは思えないけれど。何もしないよりはいいだろう。


「はい決まりー!じゃあ行こっ」


「しょうがないな」


駅まで戻ることが決定したことが嬉しいのか、諏訪くんは鼻歌を歌いながら階段の方へとくるりと身を反転させたが、そこから微動だにしていなかった。
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