春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
何故だろう。

どうしてだろう。

どうして主人公は、少女の元から去ったのだろう。

今すべきことじゃないのに、気づけば考え込んでいた。

こんなことをしている場合じゃないってことは分かっていた。でも、解けたら何かが変わる気がした私は、必死になって考えた。

そんな私を、泣きそうな顔で見つめている人が居たことには、気づかずに。


「…わかり、ません」


考えても、考えても分からなかった私は、ぽつりと呟いた。

主人公のことも、そんな問いかけをした維月のことも、まるで分からない。

どうしてこんなことになってるんだろう、なんて。

そんなことを思い始めていた自分の心も、分からなかった。


「…どうしてなんでしょう」


本のことなのか、維月のことなのか、現状のことなのか。何なのか分からないまま、声をこぼしていた。

それに返事をするように吹いた風が、回答ではなく衣服越しに気温を伝えてきた。

そっと顔を上げれば、私でなく遠くを見つめている維月の横顔が目に入った。

何を考えているのだろう。そう思った瞬間、遥か彼方を見つめていた瞳が、緩々と私を映す。
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